『ぼくらが旅に出る理由』山下卓


『ぼくらが旅に出る理由』

『ぼくらが旅に出る理由』
出版社:エンターブレイン
価格:1800円(税込)
発売日:7月11日

新刊『ぼくらが旅に出る理由』の発売日が7月11日に決定しました。

この小説は書き始めてから、かなりの時間が流れています。

書き始めた当初は、担当編集者との間で『4sisters』という題名で呼んでいました。

この題名でピンとくる読者は、かなりレアかと思いますが、そのレアな方々にはいつぐらいの時期に書き始めたかわかってしまい、あきれられてしまうでしょう。

あまり褒められたことではないですが、僕のパソコンのハードディスクには、そういう小説がかなりの数、眠っています。

今回の『ぼくらが旅に出る理由』も、最初の百ページほどを書き上げたところで、一度物語が座礁しました。座礁している期間に、何冊かの小説を書き終え、ある時ふと、今なら書けるかな、と保存してあったファイルを開いたら、そこから一気に物語が始まりました。

物語を書き終えたとき、僕は自分の中で、何かを取り戻せた気がしました。それは今思い返すと「物語に乗っかる」という感覚です。

そこにいる登場人物と同化して、一緒にその世界で遊んでいるうちに、自然と物語が醸成されていく感覚。物語という乗り物に乗って、僕自身もその世界を旅しているという感覚……頭で考えるよりも早く、感情で物語が動いていく。そういう感覚で最後まで書ききれたのは久しぶりでした。書き終えたのは、明け方で、そのとき頭の中で、サザンの『希望の轍』が聴こえていました。

そして、けっきょくまた400Pを超える分厚さになってしまいました。

スミマセン……。

これは、伊豆大島を舞台にした中学生の男の子と女の子の物語です。

伊豆大島という場所には、色々な思い出があります。

『ぼくらが旅に出る理由』扉イラスト初めて、伊豆大島に行ったのは十五年以上前の夏でした。

当時僕は自分の雑誌を起ち上げている最中で、そこにいた仲間と夏のイベント的にどこかへ遊びに行こうということになり、東京の近場で非日常に浸れる場所を探していました。

そのとき、ある女の子が提案したのが「大島に行く大型客船の甲板の上で待ち合わせる」というものでした。待ち合わせ時間は夜の10時で、甲板に集まった人間だけで旅に出る、というなかなかワクワクする企画でした。

僕はその時初めて、伊豆大島に向かう船が、竹芝桟橋から毎晩十時に出航し、八時間以上も海の上を漂いながら、朝の六時に到着するということを知りました。

実際の距離はそんなに離れていないのですが、夏の夜の海の上に八時間もいるというのは、新鮮な体験です。レインボーブリッジの下を通過し、右手に羽田空港や京浜工業地帯の光が見えてきて、やがて、あたりは真っ暗な海だけになります。

甲板で毛布にくるまって寝転がっていると、波の音と風音しか聞こえません。

そして、朝の訪れとともに、海の向こうに、大島の島影が見えてきます。

その短い旅行で、すっかり大島にはまり、僕はその後も定期的に大島に訪れるようになりました。そして、この小説を書こうと思い立ったとき、大島で中学二年生の女の子と知り合いました。

渚さんという女の子で、彼女と彼女の友達と、彼女の家族(お父さんとお母さんとちょっとツンデレな妹さん)には、一日中いろいろな場所を案内してもらいました。

この小説に出てくる廃墟や秘密基地や現地の中学のプールが自然の温泉であることなどは、すべてそのとき教えてもらったものです。

渚さんのお母さんには、泊まる場所まで手配していただき、帰り際に大島椿油のおみやげまで頂きました。

そんな渚さんも、今では成人して、たぶん大島を離れてしまっているのではないかと思いますが、ようやく、あのとき、中学二年生の渚さんと約束していた小説を書き上げることができました。彼女に出会わなければ、この小説は生まれていなかったと思います。(しかし、まったく、何年かかっているんでしょうね。ヤバイです……)

そんな、夏の大島での体験が詰まった新刊『ぼくらが旅に出る理由』です。

ちょうどこれから本格的な夏で、学生の方は夏休みが到来ですね。

オトナの方は、中学生の気分に戻って、小説の中で夏の大島へ旅してみてください。

ちょっとほろ苦くあまずっぱい、夏の青春恋愛サイエンスミステリーです。

ご覧のカバーは、イラストレーターの平沢下戸さんが小説雰囲気を見事に一枚絵にしてくれました。

僕はまだ直接お会い出来ていないのですが、平沢さんのHPにある絵も素敵です。

この場を借りて、ありがとうございました。

最後に、今回の帯の推薦文はAKB48の宮澤佐江さんが書いてくれました。

AKB48宮澤佐江さんも感動!

小説には、校正さん(校正という職業です)という、小説の中に書かれている事柄の事実関係や言葉遣いをチェックしてくれる専門家の方がいるのですが、僕がエンターブレインで出版する小説はすべて同じ女性の方にお願いしています。

『BLOODLINK』の時代から僕の小説のクセを隅々まで知り尽くし、本当に的確な指摘をしてくれる素晴らしい方です。その校正さんが、今回の小説を読んでくれたとき「ヒロインのリンコちゃんが宮澤佐江さんに見える」と言ってくれたのが、今回の帯をお願いするきっかけになりました。

校正の大迫さん、いつもありがとうございます。

そして、宮澤佐江さん。総選挙で忙しい時期だったと思いますが、分厚い原稿を読んでいただき、手書きでメッセージまで書いてくれて、ありがとうございました。

メディア選抜、おめでとうございます。

宮澤さんに負けないように、がんばります。

追記:長年『BLOODLINK』を読んでくれていた読者の方には、この小説は別の楽しみがあります。

今後ともどうぞ宜しく。(山下卓)

カテゴリー: おしらせ, 小説 パーマリンク

『ぼくらが旅に出る理由』山下卓 への13件のフィードバック

  1. フェルディナンド・アントニー・オッセンドフスキー のコメント:

    はじめまして。
    新刊が発売されるのですね。楽しみにさせていただきます。
    また、「BLOODLINK」に関係がある作品のようで、それも楽しみです。
    BLOODLINKと言えば、初めてBLOODLINKを手にしたのが中学生の頃でした。
    そして、雪花(下)が出た頃には大学生となっており、今では社会人です。
    時が経つのは早いものです。
    今思い起こしてみると、主人公の精緻な心理描写や謎の多いストーリー、魅力的なキャラクターとそれを見事に再現したHACCAN氏のイラストに惹かれ、新刊が楽しみで仕方ありませんでした。
    そして雪花(下)を読み終わった時は、これが最終巻だと思っており、残念に思いました。
    ですが、このサイトでまだ「第1部完」であって、終わりではない事を知り嬉しく思います。
    第2部も期待してよろしいでしょうか?それと、果南の地の復刊も。
    それでは、今後のご活躍を陰ながら応援させて頂きます。

    • 山下卓 のコメント:

      オッセンドフスキーさん
      はじめまして。山下卓です。コメントありがとうございます。
      なんというか、僕が『BLOODLINK』を書き始めたとき中学生だった方が、もう社会人ですか……。
      感慨深いというか、本当に時が経つ速さを感じますね。
      『ぼくらが旅に出る理由』は独立した小説で、『BLOODLINK』を知らない人が読んでも楽しめる物語です。
      でも、『BLOODLINK』の読者の方にとっては、まったく別の感動があると思います。
      やはり、『獣と神と人』を読んでいると、後半の感動は三倍増しくらいになるかと。
      『BLOODLINK』は、続きに関しては考えています。
      ただ、出版サイクル上、どんなカタチで出せるかを検討中です。
      『果南の地』も同じように、完全版として、出し直したいとは考えています。
      そのときは、またご報告しますね。それほど、お待たせはしないと思います。
      しかし、オッセンドフスキーですか。良いハンドルネームですねー。
      実は、つい先日、和志が通っていた神保町の古本屋(実在します)で、
      発見してしまったんですよ。オッセンドフスキーの『動物と人と神々』。
      和志が探し続けていた本を、僕が現実に見つけてしまったことで、
      なにか新しい時間が動き始める気がします。
      今後とも、よろしくお願いします。
      それでは、また。

      山下卓

  2. ゆき のコメント:

    はじめて!お久しぶりです。
    私も初めてbloodlinkを読んだのは中学生でした。
    中学生の私にはかなり衝撃的だってのを覚えています。

    そして初めてファン(レター?)メールを送ったのも
    山下先生です。
    まさか返事がかえってくるとは思わず
    嬉しくてメールをずっと保護してたほどです( ^∀^)

    次の作品も楽しみしてます!!

    • 山下卓 のコメント:

      ゆきさん
      はじめまして、じゃないですね。お久しぶりです。
      ファンレターやメールは、書き手にとってはとても嬉しいもので、
      そこから大きな力をもらっていました。
      ゆきさんにもその力をいただいていたと思います。
      あらためて、どうもありがとう。
      今もこういうコメントに、すごく励まされています。
      にしても、最近コメントを書いてくれる人やメールをくれる人は、
      中学生の頃に読んだという人が圧倒的に多いですね。
      自分がすごく歳をとったのを実感させられます(笑)。
      それでも、まだBLOODLINKの世界に付き合ってくれて、感謝です。
      今回の『ぼくらが旅に出る理由』はある男の子のスピンオフ小説ですが、
      大きな物語世界では、当然いろいろつながっています。
      楽しんでいただけると嬉しいです。
      まだまだ、頑張ります。
      今後とも宜しく。

      山下卓

  3. satomi のコメント:

    『4sisters』!!!『ふたり』の頃からちらちら聞いていた作品がついに出るんですね!!嬉しいです!!
    今後も『BLOODLINK』関連の作品を期待しています!!

    • 山下卓 のコメント:

      satomiさん
      以前もコメントありがとうございます。
      メールを送ってくれたこともありましたね。
      いつもありがとうございます。
      BLOODLINK関連の作品を書くのは久しぶりで、
      感慨深いものがありました。
      しかし、『ふたり』のころから何年経ってしまったんでしょうね。
      長らくおまたせして、スミマセン……。
      『ぼくらが旅に出る理由』は、独立した小説ですが、
      BLOODLINK読者はより楽しめるものになっています。
      主人公の中学生はあの子で、例のアノ人も登場します(笑)。
      ぜひ楽しんでください。

      山下卓

  4. シメイ・トラピスタ・レッド のコメント:

    お久しぶりです。以前に先生のniftyアドレスにファンメールを送りました。
    といってもほんとうに随分前なので、覚えていらっしゃらないと思いますが。笑

    新作、ついさっき拝読しました。
    一番好きなブラリシリーズは「ふたり」「刹那」なので、言葉にならないくらい感激しています。
    文中の野犬のくだりでまさかと思ったのですが、本当にそうだった時は体の芯から震えました。

    364頁の最初の2行、あえてページの始まりにくるように調整して下さったんですよね。
    本当にヤられました。山下先生と編集の皆さまに、心から御礼申し上げます。
    素敵な本を、ありがとうございます。

    • 山下卓 のコメント:

      シメイ・トラピスタ・レッドさん
      はじめまして、ではなく、お久しぶりですね。
      シメイ・トラピスタ・レッドという名前だけで、
      いろいろ読んでくれていたのがわかります(笑)。
      今回『BLOODLINK』ワールドは僕自身すっかり時間を空けてしまったので、
      逆に純粋に楽しんで書くことができました。
      彼女のことが語られるくだりでは、たしかにBLOODLINK読者には響いてほしいな、という想いがあったので、そこにハマってくれて素直に嬉しいです。
      364頁のご指摘の箇所は、最初は意図していなかったんですが、
      最後の原稿チェックで、文章を削らなければならなくなったとき、
      どうせならと思って、ページをめくった瞬間に登場するように調整しました。
      そんなに細かく読んでくれて、ありがとう。編集者も喜びます。
      こんなに長い間、僕の本を読んでいてくれて嬉しいです。
      こちらこそ、素敵な感想をありがとう。
      今後とも宜しく。

      山下卓

  5. ココ のコメント:

    はじめまして

    私は他の作品は読んだことが読んだことがなかったのですが
    たまたま宮澤佐江ちゃんが気になっていて ヒロインが似ている、とのことで
    手にとらせていただきました

    一度目はどんなところが似ているんだろう?と読んでみましたが
    たしかにファンからみると共通点がいろいろあって楽しめました

    まっすぐな気持ちを表現しにくくなった昨今、
    主人公の一生懸命なところや出会う人々との関わりは
    個人を重視して他人との関係をうまく築くことを恐れている現代社会に
    足りないものだとおもいます
    旅という非日常のもたらす冒険の経験は人を成長させることができるとおもいます

    主人公と同世代だけでなく いろんな世代の方に読んでいただき
    勇気が持てない人の背中を押してくれる手助けになるといいなとおもいました

    あと大島に行ってみたくなりました
    ぜひ海と星を眺めてみたい!

    • 山下卓 のコメント:

      ココさん
      はじめまして。
      初めて本を読んでくれた上に、コメントまで書いてくれて、とても嬉しいです。
      宮澤佐江さんには今回は本当にお世話になりました。
      総選挙の忙しいさなかに、手書きで推薦文を書いてもらって、感謝しています。
      ただ逆に、宮澤さんのファンの方にどのように見えるのかは、正直ドキドキでした。彼女はとてもファンの方に愛されていますからね。
      でも、ココさんの感想で、ちょっと安心できました。ありがとう。
      今回は中学生の男の子が主人公ということもあって、
      僕自身の頭も中学2年モードにして、
      今の僕には恥ずかしいくらいまっすぐにいろんなものにぶつかっていく、
      男の子の姿を書きたかった部分があります。
      そういう部分に共感してもらえて嬉しいです。
      大島はいいですよ。行くならやっぱり夜の大型客船がおすすめです。
      帰りはジェットフェリーでいいですけどね(笑)。

      山下卓

  6. satomi のコメント:

    2回も書き込みすみません!
    読み終わりました!BLOODLINK読者としては今回の主人公の男の子の名前見た瞬間に、あれ?あれ?!!!ってなりました!!「ふたり」を本棚から引っ張り出してきてみたりしました笑 そして、あの人が登場してニヤニヤが止まりませんでした!笑 この本から読んだ人がBLOODLINK読んだらめちゃめちゃ楽しいんだろうな~とか思ったりもしました!! 読み終わってどうもこうもしてられなくなり、書き込んでしまいました笑 楽しい物語をありがとうございました!! いろんな続きをやっぱり期待してます笑

    • 山下卓 のコメント:

      satomiさん
      感想どうもありがとう。
      やっぱり、読まれた人の感想はいつもドキドキします。
      そして、楽しかったという言葉には救われます。
      僕も個人的には『ふたり』が好きだったりします。
      理由は、あの本は3日で書いたので、書いていた時の記憶がないんです(笑)。
      嘘みたいですが、ほんとうの話です。
      だから、自分ではなく、他人が書いたみたいに読めちゃうんですよね。
      ちなみに、今回の物語の時系列は、
      本編の続きになっています。
      つまり、和志とカンナが夜光から引きあげたあとの話です。
      なので、八神亮介がコウに記憶の話を語っているときに、
      彼は和志とカンナのことを思い浮かべています。
      その理由は、本編のほうでできるだけ早く、
      明らかにしたいと思っています。
      ではまた。
      あ、ちなみに、何回でも書き込んでくれてかまいませんよ。
      というか、いくらでも書き込んでください(笑)。ほんとに。

      山下卓

  7. Edward Bulwer, Lord Lytton のコメント:

    THE COMING RACE
    http://www.gutenberg.org/files/1951/1951-h/1951-h.htm

    こんなの見つけました。